Changeling クリント・イーストウッド2008 アメリカ
クリント・イーストウッド監督作は近年、ほとんど見てきたつもりだったのに、なぜかスルーしていた本作。アンジェリーナ・ジョリーの名前が前に出ていたから、自然とスルーしていたんじゃないかと思うのだけど。
アンジェリーナ・ジョリー、「17歳のカルテ」の頃は好きだったけどなぁ。有名になって、極端なよーがりになって、ひどいモデル体型でなぜにアクション撮ってるって思うようになってから気が進まない女優さんになってしまってたなぁ。
本作を何の前知識もなく見たので、ストーリーがどこに進むのかもわからず、派手なアクションはいっさいないけど、緊張感が続いて見応えのある一作でした。
もし、本作についてなんの情報も入ってないなら、その状態で見るのがオススメ。
こっからネタバレありで。
舞台は1920年代後半のロサンジェルス。ローラースケートの電話交換手とか、車とか、雰囲気作りがいいね。イーストウッド作品はこういうところ、安心して見られます。それにしてもLAPD(ロサンジェルス市警)の腐敗ぶり。主人公は警察によって精神病院送りになるわけだが、当時のアメリカの精神病院といえば、ロボトミー手術もやっていたような野蛮で、非科学的な、ある意味、刑務所より怖い場所だ。電気ショックの場面も出てくるが、ほんとうに非人道的な処置が当たり前で怖すぎる。「あたたの頭がおかしいのだ」という圧力に屈しないアンジェリーナ・ジョリー、素晴らしい。本当に久しぶりに見応えのある彼女の演技だったな。
これが実話を基にしている、というのが重い。サイコキラーは昔から一定数いたのだろうけど、ハッピーエンドにほど遠い事実がやはり重い。
あと、個人的には幼くして、警察から強制されたとはいえ、ぬけぬけとなりすましを行い、人のおうちで過ごしてた少年もかなり怖い。「Good Nite, Mam」とか言っちゃうしね。どんなメンタリティなんだ?
警察の腐敗、という点では、現代のBLMの一番大きな主張が警察への糾弾であることも理解できる。やはり公権力が、それも暴力と法を司る権力が人種差別的で人権を踏みにじる行為にでるというのは、一市民にとってほんとに恐怖だと思う。怒り、というより恐怖だ。とはいえ、当時に比べれば警察も、精神病院も、少しずつだけど改善されてきたのじゃないかな。本当にゆっくりとではあるけど、人権を守るという基本原則が少しずつ前進してきたのだと思う。だけど、人権でも民主主義でも、守り続けなければ後退してしまう。日本の入管施設での人権蹂躙もひどいし、お隣の大国の振る舞い、ミャンマーの現状など、本当に当たり前の権利を守るためにやはり戦い続ける意志が必要なんだろうな。本編の主人公のように、ある日突然、犯罪に巻き込まれ、権力に抑圧される日がくるかもしれない。自分の身に降りかかってからでは遅い。守るための不断の努力は、普段から必要なんだなと思いました。