石垣島から所想所説、徒然なるままに

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活きる(字幕版) 活著 張藝謀1994 中國

張藝謀監督作。原作は1993年発表の余華の小説。
たぶん、昔に見たことがあると思うのだけど、アマゾンプライムに上がっていたので鑑賞。中国の国共内戦から大躍進政策文化大革命を経験した主人公・福貴を諧星・葛優が演じ、その妻をコン・リーが。この頃のコン・リーは監督の彼女だったんじゃないかな。
 この作品は張藝謀監督として唯一、中国国内での公開が許可されなかった作品らしい。1994年は今に比べると情報統制は緩かった印象だが、真っ正面から毛沢東の時代を描くことはやはり許されなかったのだろう。まったく、いやな国だ。とはいえ、現在はオンラインで中国国内でも鑑賞できるらしい。
 張藝謀はヨーロッパでもアメリカでも(そして中国国内でも)非常に高い評価を得ている監督だから、この作品の「封殺」以降も順調に作品を発表している。一人っ子政策に反して子ども作りまくったり、いろいろと問題ありそうだが、習近平時代よりはゆるかったのか、本人の立ち回りがうまかったのか、生き延びてきた。「ノマドランド」監督・趙婷を比較してみると面白いかもしれない。
 作品時代は中国の歴史に詳しい人とっては国共内戦の頃に国民党が民心を失うようなむちゃくちゃをやっていたことも、大躍進政策で武器にはとても使えない質の悪い鉄をせっせと作っていたことも、文化大革命反知性主義についても知っているだろうから、けっこう退屈に感じるかもしれない。外から見ればこの程度のユーモアを交えた諷刺が許されないのはちょっと理解しづらい。主役の葛優の個性もあいまって終始ユーモアが漂っていて、史実の凄惨さに比べればとてもソフトに描かれているといえる。国共内戦の死者数は日本軍の侵略時に匹敵する数にのぼり、大躍進政策の頃の餓死者の数は1,600万人から3600万人ともいわれ、文化大革命でも自国民が互いを殺し合いを40万人から1,000万人という犠牲者を出すに至った。毛沢東は軍事家としては優れていたかもしれないが、内政を司る政治家としては最低だったというべきだ。文化大革命時代の食人など、さすがに映画には取り上げられていない。
 現代の共産党政権をなぜ中国人が支持するのか、日本人であれ、西欧社会の人であれ、理解に苦しむ。だけど、過去のあんまりにもひどい状況に比べれば、現在の繁栄した中国に文句を言う人が少数派になるのも理解できる。祖父母や父母が過ごしてきた時代が比較対象なら、現代のデジタル監視社会なんてどうってことないんだろう。ましてやウィグルやチベットのことなんて、と。

 作品自体に戻ると、張藝謀らしくどの映像も美しく、子役の演出も素晴らしく、この激動の時代、長い時間軸を少ない登場人物でまとめるのだから、見事というほかない。主人公が息子と孫にいい聞かせる「ひよこが大きくなったら、、、」の話を素直に聞くなら、ラストで主人公ははっきりと共産党を否定しているようにも聞こえる。やはり、傑作だと思う。

 

活きる(字幕版)

活きる(字幕版)

  • 発売日: 2019/09/01
  • メディア: Prime Video