タクシー運転手 ~約束は海を越えて 2017年 韓國
史実とは異なる点も多々あるようだけど、韓国の現代史に少しでも理解を深めるにはいい素材だと思います。ラストの演出はともかく、そこに至るまでの緊迫感はすばらしく(前半はコメディではあるけど)、光州民主化運動と光州事件が韓国社会に大きな影響を残したのもうなずける。
作品中で興味深いのは、当事者である市民たちがぜんぜん状況を把握できていないこと。携帯電話もインターネットもない時代だから当然ではあるけど、この作品の前半部分では不穏な空気が漂っていることは感じられるけど、戒厳令下の街はかえって静まり返り、デモの現場と病院だけが大変な騒動になっている。この作品では主人公の目を通じて徐々に実際に起こっていることを理解し、目撃することになる。病院で通訳担当の大学生ク・ジェシクの亡骸に向き合う場面は涙を禁じ得ない。戦争も悲惨だが、軍隊の暴力が自国の市民に向けられるのは、本当に悲しすぎる。
東アジアでの韓国と台湾の民主化の過程を知ると、日本との違いを痛感してしまう。けっきょく日本の民主主義は与えられたものだなぁと。
香港では現在進行形で中国共産党による市民への弾圧が進んでいる。それに対して何も言えない日本政府には憤りを感じるし、個人としても何かできることはないのかとあせってしまう。
今、当たり前に享受している民主主義社会は天から降ってくるものじゃない。勝ち取ってきたものだし、守っていかなければいかないものだと改めて考えさせられる。
いい作品でした。