ALL IN [THE FIGHT FOR DEMOCRACY]
すべてをかけて 民主主義を守る戦い
2021年1月9日 追記
大統領選に続き、上院選挙でも民主党が勝利した。この作品に出てきたステイシー・エイブラムスさんは覚えておくべき注目人物。ただのおばちゃんかと思ってたけど(笑)、地道な活動が実を結んだらしい。すばらしい。
2020年11月11日視聴。
BLM、Black Lives Matterがあり、アメリカ大統領選挙があり。 激戦州となったジョージアだが、2年前に行われた州知事選挙を通して、アメリカにおいてマイノリティが如何に投票権を勝ち取ってきたかの歴史を教えてくれる良作だ。
公民権運動については教科書でも習うし、個人的な興味から近年の投票抑圧の話も読んだり聞いたりする機会はあったのだけど、このドキュメンタリーは今に至るまでの流れをうまくまとめてあったとても勉強になった。
民主党支持で知られるジェフ・ベゾスのアマゾン製作ということで、政治的な偏りは否定できないが、データで裏付けられるような明らかな投票妨害、投票抑圧を近年の共和党、政治的右派集団が行ってきたことは明らかだ。人口動態的に今後、ラテン系を中心とした移民と黒人が多数派になり、WASPを中心に動かしてきたアメリカの政治経済の中心を明け渡さないといけないという危機感や恐れからくる反発だと思うけど、まぁ外から見れば「FATHERS 建国の父たち」だって移民だし、FATHERSが連れてきた黒人奴隷の子孫だって、立派な建国の始祖の一部だ。
トランプ以後、人種差別的な態度や発言、排外的な意見が堂々と語られるようになってしまったアメリカ。トランプがグローバリゼーションの恩恵から取り残されてしまったラストベルトの「遅れてきた白人移民たち」や、中南部のパスポートすら持ったこともないような田舎暮らしの白人など、ホワイトトラッシュと言われるような白人貧困層の声を拾い上げてきたのも事実だ。
トランプというのはある意味「パンドラの箱」をいろんな方面で開けてしまった人だなぁと思う。上記のようなホワイトトラッシュたちのポリティカルコレクトネスとは真逆のような本音もそうだし、コロナ以後の中国に対する真っ正面からの非難にしてもそう。共産党一党独裁のなかで絶対君主のように振る舞う習近平を、民主主義国家の人たちが受け入れることは到底不可能だと思うが、今までは発展する中国の経済から恩恵を受けてきた先進諸国は表だって非難することを避けてきたわけだ。民主政治や憲法よりコーランを上に置くムスリムに対する態度も同じように考えられるかもしれない。人道的に、だったり、理想化された人権擁護をうたう立場からはとうていいえないような「移民は来るな!」だったり、トランプがアメリカの歴史、世界の歴史の中に登場してきた意味というのはやっぱりあるんだろうなと。
閑話休題。本作の見所は2つ。黒人たち(や女性やその他マイノリティ)が如何に苦労して投票権を獲得してきたか、を学べる点。まさにFight For Democracyで、多くの血が流れる戦いそのものだったということ。もうひとつはアメリカで白人が少数派へと転落していく流れの中で、頑迷な保守派がかなり汚い方法で、今また黒人たちやラテン系移民やネイティブアメリカンやその他マイノリティの権利を奪い、既得権益を守ろうとしているか、というのも理解できる点。BLMはもちろんそうだが、今まさに起こっている問題だということだ。
日本に住み、以前中国にも住んだことのある自分からすると、アメリカにはこれからも民主主義を代表する国であってほしいと願ってしまう。中国のような人権無視の国家は世界からなくなってほしいと切に願っている。日本の民主主義はアメリカから与えられたもの、という認識が一般的だと思うが、明治以後の戦争で流された多くの血が、現代の民主社会の礎になっていると信じたい。僕たちの人権や民主社会も血であがなって得たモノなのだ。
あと、日本でもトランプの強烈な個性を含め、支持する人たちが一定数いると思うが、やはり「もし自分が抑圧される立場だったら」ということを考えてほしいと思う。トランプと一緒になって「移民は出て行け」といえるような出自だったり、「国民皆保険なんていらない! 政府の自由への干渉だ!」といえるほど健康だったり、「妊娠中絶は認めない」とレイプされた女性にいえるような冷血漢だったり、「銃規制は認めない、ガンキャリーだって権利だ」という日常に暴力が入り込むことに抵抗のない人だったらいいかもしれないが、普通に考えたらあり得なくないか!? 少なくともぼくにはあり得ない。マイノリティや他者の権利を積極的に擁護しようとすることが、自分が弱い立場になったときに自分の権利を守ってくれることにつながると思う。
民主党政権になってアメリカがその分断を少しでも克服してくれることを切に願っている。ちょっと傲慢なぐらい世界に向かって自由と人権を謳う国に戻ってほしい。そして中国共産党に「NO!」といえる国であってほしい。習近平が世界のリーダーになるような絵だけは見たくないよ、ほんとに。