石垣島から所想所説、徒然なるままに

沖縄・石垣島の話題を中心に、石垣島から見えること、思うことを徒然に。好きな映画のレビューや、自分が難儀しているアトピーの話題なんかも。

パラサイト 半地下の家族 2019 韓国

 ご存じカンヌでパルムドールをとった作品。公開前から話題になり、絶賛されていた作品なので早く見たかったが、よくやく視聴。前情報をできるだけ入れずに見たいと思っていたけど、前半部分の展開なんかはなんとなくわかってしまっていたかも。

 韓国映画初のパルムドールをとった作品ではあるんだけれど、果たして万人受けする作品といえるのだろうか、という点は少し疑問だ。なにしろ笑えるような笑えないブラックユーモアの連続で成り立っている作品で、個人的には爆笑するような、できるようなシーンはなかった、というか笑うに笑えないというか。もちろんクスッと笑えるシーンはたくさんあるんだけど、爽快感が残るようなものではなくて、それこそ半地下の泥水や汚水が混じったような後味の悪さがある。たぶん、僕自身がこの主人公「半地下の家族」たちに近しい経済的に貧しい暮らしをしているからだろう。
 作品の社会背景として貧富の格差の拡大、人口一極集中によるソウルの住宅事情の悪化、若者の高学歴化とそこからドロップアウトしたときの就職難などは予備知識として持っていたのだけど、「半地下」と呼ばれるような貧困層の居住地があるのは知らなかった。タダ乗りできるWiFiを求めて部屋の中を探し回る姿は本当になんともはや。
 この作品を全体としてコメディにしているのは主人公キム一家が極度の貧困なのに仲が良く、笑顔があり、イライラしていないからだろう。貧困とメンタルヘルスは相関関係があると思うけど、なぜかこの一家はあっけらかんとしていて、家の前に来る立小便男と戦ったりする。
 以下ネタバレ含む。
 息子ギウが身分を偽って大学生を名乗り、家庭教師としてパク家に乗り込むところからいわば「詐欺師モノ」のストーリーが展開するんだけど、ハリウッドの天才詐欺師たちがクールに悪人や金持ちをだましていくのとは違い、パク家の母娘は典型的な「いい人」だし、キム家の詐欺が(妹のギジョン以外は)なんともあぶなっかしく、いつバレるんだろうというハラハラドキドキが続く。そしていよいよ中盤のあの展開につながるわけだけど、あろうことか留守中のパク家で宴会開いちゃうんだから、しかも半地下のアパートと変わらないようなスタイルで(笑)。で、前の家政婦が訪ねてきたところからの怒涛の展開。母チュンスクが元家政婦を蹴落とすシーンは、演出は完全にコメディだが、もはやスリラーというか、ホラーというか笑うに笑えない。

 ストーリーのすべてを紹介しても仕方ないので、ここらへんで止めておくけど、やっぱりすごい作品だと思うね。舞台は半地下のアパートとパク家の豪邸しかほとんど出てこないし、登場人物もこれだけ少なくまとまっていてのこの展開の複雑さ、脚本はほんとに素晴らしいと思うな。これをブラックコメディとして描いている演出も、好き嫌い分かれると思うけど、すごいなと思いました。
 今の韓国映画のパワーを感じる作品でした。

 

パラサイト 半地下の家族(字幕版)

パラサイト 半地下の家族(字幕版)

  • 発売日: 2020/05/29
  • メディア: Prime Video
 

 

英国総督 最後の家 2017年イギリス・インド

ベッカムに恋して』のグリンダ・チャーダ監督作。
インドとパキスタンの独立、分裂を描いた問題作でもある。パキスタンでは上映禁止となったそうだ。

 インドがイギリスの植民地として300年も支配されてきたのはよく知られた事実だし、初期~中期に至るまではイギリス東インド会社という特権会社によって統治されるという複雑な歴史を持つ。常に独立を求める活動はあったわけだけど、1915年にガンジー南アフリカから帰国、非暴力不服従による独立運動が2つの大戦を経ながら展開してくことになる。
 本作は1947年に、独立を円滑に行う使命を帯びたルイス・マウントバッテンが最後のインド総督として着任するところから始まる。独立そのものは既定事項であったけど、ヒンズーとムスリムの対立からパキスタンとの分離しての独立となってしまう。それまで友人で会ったり、恋人であったり、職場の同僚であった人たちが引き離されていく。暴動が多発し、多数の難民が生まれ、、、。

 本作は最後のイギリス総督一家を善意の人物たちとして描いているけど、そもそもの問題でいえばイギリスの罪は重すぎるだろう。ムスリムたちのパキスタンの分離がはたして正しい選択だったのかも、いまだに答えは出せないかもしれない。
 インドは中国に続く未来の超大国と目されているけれど、その国土はあまりに広く、民族も宗教も複雑で、はたして民主主義国家として歩んでいけるのか。中国の一党独裁と人権無視、国際的な専横がこれだけはっきりしている以上、インドには民主主義として頑張ってもらいたいが。
 ガンジーの精神がこの国に根付いていることを願わずにいられない。

 

英国総督 最後の家(字幕版)

英国総督 最後の家(字幕版)

  • 発売日: 2019/02/21
  • メディア: Prime Video
 

 

国際市場で逢いましょう 2014年 韓國

 自分がいかに戦後(それも朝鮮戦争後だ)を知らないかと思い知らされる作品。隣国でありながら本当に何も知らない。民主化以降の韓国だけを見ていると、戦後の日本、今自分たちが暮らしている日本とたいして変わらない民主主義社会で、資本主義社会で、と思ってしまう。
 中国に留学した時に韓国人の友人もできたけど、基本的な部分では一緒だろうという感覚でつきあってはいた。だけど、韓国の近現代史を学べば学ぶほど、日本とは違う歩みを続けてきたのだということがわかってくる。
 以下、ネタバレあり。
 本作は1950年に朝鮮戦争の戦火を逃れて主人公ドクス一家が船に乗り込もうとするところから始まる。避難船に乗り込もうという際に、ドクスは幼い妹の手を放してしまう。妹を探しに戻ろうとする父は別れ際に「俺が戻ってくるまで、お前が一家の主だぞ」と言い残す。父と妹と離れ離れになりつつ、釜山の「国際市場」で露店を営むおばを頼って戦後の歩みを始めることになる。母と兄弟との貧しい生活の中で必死に家計を支え、自らの夢を封印して家族のために必死に働きつづけることなる。大学に進学する弟のためにドイツの炭鉱に出稼ぎに行き、そこで生涯の伴侶を得るも、炭鉱事故で危うく命を落としそうになる。帰国後、おばの国際市場の店舗を買い取り、なおも妹の結婚資金のためにベトナム戦争に民間の協力者として従軍し、結果、左足に銃弾をうけてしまう。帰国後、彼はテレビの「離散家族を探す」という企画を通して、あのとき離れ離れになった妹と再会することになる。
 人生のすべてを家族を支えるために懸命に生きたドクス。1950年、離れ離れになる直前に父親はドクスに「もし戻ってくれなかったら、釜山の国際市場のお店で落ち合おう」と話していたのだった。そのためにドクスはお店を守り続けてきたのだった。

 自分にも戦中派の祖父がいた。戦中に中国にも行き、戦前と戦後すぐまで船乗りでもあり、家族のために炭鉱に入り、炭鉱がすたれると家族を養うために大阪の紡績業に移った。どこまでもがむしゃらに働いて働いて生き抜いた祖父。もうなくなってしまったけれど、思い出されて涙を禁じ得なかった。あの時代、家族のために懸命に働く、それ以外のことを考えるような余裕もなかったのだろうと思う。
 韓国人がドイツなどに大量に出稼ぎにいっていたことも詳しくは知らなかったし、ベトナム戦争時にどのような関与の仕方をしたのかも詳しく知らなかった。
 また、大戦後、祖国が二分され、離れ離れになってしまった事実は意外と多い。有名なのはドイツの東西分裂だろうし、日本の満州での孤児も昭和の時代にはよく報道されていた記憶がある。最近ではインドとパキスタンの分裂を描いた映画も観た「英国総督 最後の家」。韓国でテレビ番組を通して家族の再会が進められた事実も知らなかった。
 今、日本と韓国では慰安婦問題、徴用工問題を中心に植民地時代そのものの問題も含めてどうしようもない泥沼の関係になってしまっているけれど、お互いを知ろうと努力することは最低限必要だろうと思う。こんな政治的外交的な状況ではあるけれど、韓国の映画やドラマが日本で放送されること、韓国文学も一種のブームであることは歓迎すべきことだと思う。今後、日韓関係がどんな方向に進むにせよ、基礎になるのは相互理解じゃないだろうか。
 一見をお勧めします。

 

 

タクシー運転手 ~約束は海を越えて 2017年 韓國

史実とは異なる点も多々あるようだけど、韓国の現代史に少しでも理解を深めるにはいい素材だと思います。ラストの演出はともかく、そこに至るまでの緊迫感はすばらしく(前半はコメディではあるけど)、光州民主化運動と光州事件が韓国社会に大きな影響を残したのもうなずける。
 作品中で興味深いのは、当事者である市民たちがぜんぜん状況を把握できていないこと。携帯電話もインターネットもない時代だから当然ではあるけど、この作品の前半部分では不穏な空気が漂っていることは感じられるけど、戒厳令下の街はかえって静まり返り、デモの現場と病院だけが大変な騒動になっている。この作品では主人公の目を通じて徐々に実際に起こっていることを理解し、目撃することになる。病院で通訳担当の大学生ク・ジェシクの亡骸に向き合う場面は涙を禁じ得ない。戦争も悲惨だが、軍隊の暴力が自国の市民に向けられるのは、本当に悲しすぎる。
 東アジアでの韓国と台湾の民主化の過程を知ると、日本との違いを痛感してしまう。けっきょく日本の民主主義は与えられたものだなぁと。
 香港では現在進行形で中国共産党による市民への弾圧が進んでいる。それに対して何も言えない日本政府には憤りを感じるし、個人としても何かできることはないのかとあせってしまう。
 今、当たり前に享受している民主主義社会は天から降ってくるものじゃない。勝ち取ってきたものだし、守っていかなければいかないものだと改めて考えさせられる。
 いい作品でした。

 

タクシー運転手 ~約束は海を越えて~(字幕版)

タクシー運転手 ~約束は海を越えて~(字幕版)

  • 発売日: 2018/11/02
  • メディア: Prime Video
 

 

西門に降る童話「西城童話」2017 Taiwan

 西門町のビルからお金を降らせるというホームレス・西門慶の設定は面白いと思う。そこに921地震を絡めるのも悪くはないと思う。だけど、ストーリーとしては、どうなんだろう?登場人物たちがさまざまな経験を通じて成長したり、生まれ変わったり、前に進もうとなってくるとか、もう少し描いてほしかった。西門慶が地下を克服したり、小虎が母との関係を取り戻したりなどはあるけど、いまいちなんだよなぁ。映像はきれいだし、悪くはないけど。面白いかぁといわれると。

 

西門に降る童話 【台北発メトロシリーズ 西門駅】

西門に降る童話 【台北発メトロシリーズ 西門駅】

  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: Prime Video
 

 

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(字幕版) Trumbo film2015 America

冷戦の開始から1950年代前半にかけてアメリカで猛威を振るった赤狩りが背景となっている。あのチャップリンすら国外追放にした当時アメリカのマッカーシズムマッカーシー議員と非米活動委員会」。実力と人気を兼ね備えた脚本家だったトランボの人生もこれによって大きく狂わされていく。
 その経緯は本編を見て頂くとして、刑務所から出所後に偽名で書いた脚本がすごすぎる。
ローマの休日」「スパルタカス」「Exodus」などなど。
「Johnny Got His Gun」(ジョニーは戦場に行った)は1939年に書かれた原作小説だが、とにかく恐るべき才能で、こんな偉才を明確な証拠もなく起訴収監に至ったのだから、当時の赤狩りをポジティブに評価するのはムリだと思う。
 映画の中でも描かれるが、トランボの子どもたちが本当に可哀想で、下の子は3歳から父親の職業を隠したり、偽ったりしながら10年を過ごした、という。本当に悲劇。

 翻って日本でも、過去においてはもちろん、今でも現在の政治体制や政権に批判的な意見を述べると「反日」のレッテルが貼られて攻撃されることがとても多いように思う。右翼からみれば、政府の足を引っ張る利敵行為、という論理だが、自国に対する批判を述べるのは愛国心があるからこそだろうし、自分たちの社会をより良いものしたいというポジティブなものと考えるべきだろう。
 確かにトランボたちが信じた共産主義は結果的に強権的で人権抑圧的な社会しか生み出せず、ソ連や中国、北朝鮮をはじめ多くの独裁者を生み出し、あまりに多くの自由を求める人々を殺してきたのは事実だ。だが、トランボたちが生きた時代にはまだその結果を目にしていなかったわけだし、当時存在した格差をなくしたい、という理想そのものを全否定するのはいかがなモノかと思う。

 現代の世界で「共産主義」を代表しているのは間違いなく中国共産党だと思うが、この中共とトランボたちが信じた共産主義は全くの別物と言わざるを得ない。確かに中国の絶対的貧困層は劇的に減少したけど、資本主義の一部だけを取り出し、格差を拡大したり人権を抑圧する「中国特色社会主義」など、はっきりいって共産主義と資本主義の悪いところが集まった醜いモンスターでしかない。その中共は「大外宣」といってせっせと世界中に金をばらまき、間違った中国のイメージをまきちらし、味方を増やそうとしているが、これにひっかかって中共の片棒を担ぐのはあまりに愚かだ。今の日本で軽々しく「親中反日」というレッテルを貼って攻撃するのは厳に慎むべきだと思うし、中国人に対する偏見差別はあってはならないと思うが、同時に中共の民主国家に対する浸透は十分に警戒すべきだと思う。水源地を買収されたり、マカオの資本にカジノを建設させたりするのは、まさに売国行為で、外交に必須な「対等」な条件を中国資本や中国人に課すべきだし(つまり日本の国土を「所有」する権利を与えるべきじゃない)、カジノを推進するような中共に買収された政治家に対する監視の目は絶対に必要だと思う。
 
 話がかなりそれてしまったけど、負の歴史を掘り起こして見せてくれる良作だと思います。

 

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(字幕版)

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(字幕版)

  • 発売日: 2017/05/10
  • メディア: Prime Video
 

 

Captain Marvel (film) 2019

「Marvel Cinematic Universe」のある意味、核になる作品。正直、MCUはいまいちハマりきらず、結局自分のような一般ピープルとは違う、スーパーヒーローの物語でしょ、と。
 その中で、本作は主人公のビルディングスロマンとしても観られて、勝ち気ないち少女が世界を救うヒロインになっていく物語だ。いわゆるポリティカルコレクトネスを押さえた設定になっていて、女性が主人公で、相棒は黒人のおっさんで、親友も黒人女性。「女にはムリだよ」という男性中心の社会で、何度も立ち上がり成長していく物語だ。
 ストーリーとしても敵味方が反転する展開は、まぁ単純ではあるが、あまりに安直な勧善懲悪よりは面白く、テンポもぐいぐい進んでいくので飽きずに観られる。クライマックスのキャロルのスーパーサイヤ人化で大活躍は感動的で、純粋に心躍る爽快感だ。
 時代設定が自分が18歳だった1995年になっていて、使われる音楽も含めて楽しかったなぁ。
主演のブリー・ラーソン、CGで若返ったサミュエル・L・ジャクソンも良かったな。
 期待以上に面白かったです。

 

キャプテン・マーベル (字幕版)

キャプテン・マーベル (字幕版)

  • 発売日: 2019/06/05
  • メディア: Prime Video