石垣島から所想所説、徒然なるままに

沖縄・石垣島の話題を中心に、石垣島から見えること、思うことを徒然に。好きな映画のレビューや、自分が難儀しているアトピーの話題なんかも。

JUNK HEAD(字幕版)2021日本

 長編として発表されてたときに、(一部で)ものすごく話題になっていたので、監督インタビューとかも見ていて、気になっていた。クレイアニメーションストップモーション、それをほとんど一人でやってきたという狂気の作品。日本にもまだこんなとんでもない人がいるんだな、と驚いたのを覚えてる。考えてみれば新海誠監督だって、ほとんど一人で作っちゃったりしてるわけで、テクノロジーの進化が知られざるクリエイターたちに多くのチャンスを与えているんだなぁと。
 撮影に関する技術面については素人のぼくとしては、ほんとにすごい、としかいえない。監督の堀貴秀、原案、キャラクターデザイン、撮影、照明、音楽を兼任し、7年掛けて独学で制作。ほとんどの意味不明のセリフも監督自身が手がけている。
 舞台となる地下世界の20世紀的な廃墟感が好きだ。高度な遺伝子工学ののちに生まれたはずの世界だけど、この作品で描かれるテクノロジーは奇妙に20世紀以前のアナログで、大友克洋スチームボーイを思い起こさせるような質感を持っている。
 一方で人間が遺伝子工学で生みだしたとされる「マリガン」は遺伝子が不安定なために野生化したり、凶暴化したり、巨大化したりするという設定。
 ぼくは、このマリガンが主人公パートン以上に人間的、生物的である、というところがちょっと怖かった。パートンは長寿のかわりに生殖能力を失った人間なわけだが、地下世界のマリガンたちの多様性はなんだろう? 巨大化し、小さなマリガンを取って食うものたち。暗がりに潜み、触手を伸ばしてかかったものを飲みこむものもいる。いっぽうでおとなしい犬か馬のように描かれる、人間が生殖遺伝子の持ち主として探そうとしていたマリガン(トロちゃん)もいる。あまりに多種多様に分化、進化したマリガンたちは、弱肉強食の生物界そのままに獲物を襲う野生のものもいれば、人間のように奇妙な社会を構成しているムラも存在している。
 これって地球上の生物の進化そのものじゃないか? マリガンの分化過程の中で残酷でグロテスクに見える食物連鎖が成立しているわけだ。
 マリガンたちは人間からみれば「共食い」しているようにも見えて、その捕食シーンはなかなか残酷に描かれている。一方で奇妙な無機物の身体になって自我(攻殻機動隊でいえばゴースト)だけになったジャンクヘッド=主人公は、地下世界に降りてきてはじめて「生きていると実感している」と語る。
 グロテスクなのにかわいかったり、無機質なのに表情豊かなロボットだったり、キャラクター造形がすごい。もちろん、随所に見られる過去のSFや日本のアニメへのオマージュかなという部分は、ほんとに楽しくて、監督の好きなモノが渾然一体となったのがこの作品なのかなと思う。
 噂に違わぬ強烈な作品。ラストに早回しで流されるメイキング映像がすごい。とにかく一度は観てみるべき作品だと思います。