石垣島から所想所説、徒然なるままに

沖縄・石垣島の話題を中心に、石垣島から見えること、思うことを徒然に。好きな映画のレビューや、自分が難儀しているアトピーの話題なんかも。

『金子文子と朴烈』原題:박열(朴烈)2017年韓国

 アマゾンプライムに登場したので、なんとなく見たんだがご多分に漏れず「反日的」と話題になっていた作品らしい。原題は「朴烈」で、抗日アナキストが主人公なんだからそりゃそうでしょ。全体としては史実から大きく離れているわけではなさそうだし。それよりも作品としてどうか、のほうが大事なわけだが、、、。
 ぼくは朴烈を、というより金子文子について、以前ちょっと興味があって調べたことがあって、ある程度知っていたので、正直、ストーリー展開が緩慢に感じられてあまり楽しめなかった。
 金子文子について興味をもったのは、やはりあの時代に、女性でアナキストの活動家として死刑判決を受けた、というのはかなり特殊な存在だからだ。とはいえ逮捕の時点で若干二十歳(朴烈もわずか21歳)、事件の大きさに比べ、実際の二人は思想的にも、活動家としての能力も未熟であったはずで、まぁまず冤罪だったろうなと。金子文子は獄中で歌集と自伝を残しているけど、未読だ。
 文子の生い立ちについてこの作品ではほとんど触れられていないのだが、信じられないぐらい悲惨な境遇だったようだ。今でいう完全なネグレクト、育児放棄の親に捨てられ、親戚をたらい回しにされて育ったそうだ。現実のすべて、社会のすべてを否定したくなる心境だったろう。無政府主義天皇制否定もその延長に過ぎないように思う。
 さて、作品に戻ると逮捕されてからラストの裁判までが長い、、、。ヒロインを演じたチェ・ヒソの日本語は、幼い頃に日本に住んだことがあるらしく、とても上手だと思うし、取調官・立松を演じたキム・ジュンハンの日本語は見事だ。
 ただ、それにしても、ね。後半はほとんど判決に向かって進む会話劇になっていて、言葉の問題もあり、とてもテンポが悪い。やはり日本人の役は日本人キャストで演じてほしかった。内務省の官僚の日本語が変、とかやはり違和感がすごい。
 不満点をまとめると
1. まとまったセリフのある日本人の役には日本人キャストを。 こういう作品を日韓合作で撮れるようになるといいんだけどね。日本人スタッフも参加してるけど、足りなかったのでは。
2. 逮捕から裁判までが長すぎるから、2人が出会ってから逮捕されるまで1年余りの同棲生活があったわけだし、そこを作り話でいいから膨らませるべきだったのでは。二人の生い立ちを深い掘りすることもできるし、それによって当時の社会状況をもっとうまく描けたんじゃないか。
3. 歴史に関するファクト云々に突っ込みたくはないのだけど、悪役として当時の内相・水野錬太郎が描かれているが、どの程度資料に基づいているんだろう? 震災時は混乱に乗じた陸軍による社会主義者や労働運動の指導者の殺害事件が実際に起こっているので(大杉栄伊藤野枝)、事実だったとしても驚かないが、舞台演劇のような演技もあって、どうも違和感が残る。

 作品として韓国では評価が高かったようだけど、歴史的、政治的な立場を抜きにしてみると、それほど面白いとは思えなかった。重くシリアスな内容を、ポップにときにユーモラスに描いているのはさすが、と思うけど、物語の推進力が足りないような。
 主人公二人について全く前知識がないほうが楽しめたのかもしれない。