石垣島から所想所説、徒然なるままに

沖縄・石垣島の話題を中心に、石垣島から見えること、思うことを徒然に。好きな映画のレビューや、自分が難儀しているアトピーの話題なんかも。

「別離」2011年イラン映画 「A Separation」

※ミステリーなので、ネタバレ含みます。

 いやぁ、地味な映画なのに、画面への吸引力がすごい。台詞のひとつひとつもきちんと観ていないと、後から伏線になっていたことに気づかずに観てしまいそうだ。
 残念ながらイランには行ったことがないし、イスラム圏の国に行ったこともない。酒が飲めない場所に休暇で旅行に行こうという気にならないというのもあるが(笑)
 二組の夫婦が登場する。
 銀行員の夫、教師の妻、知的な11歳の娘(監督自身の娘らしい)。完全に経済的なエリートで、妻は海外へ移住して娘の教育も含め、人生のステップアップしたいと思っている。夫には同居するアルツハイマーの父がいてテヘランを離れられない。妻はとくに欧米的な価値観を持っていて、海外への移住を良しとしない夫と別居する。この映画の原題も「別居」という意味だそうだ。
 もういっぽうの夫婦は、失業中の短気な夫、敬虔なイスラム教徒の妻。幼い娘。この貧しい夫婦の妻が上記の裕福な家庭へ家政婦として雇われるところから物語はスタートだ。
 テヘランで暮らす二組の夫婦を通して、貧富の差、宗教観の差、価値観の差、向き合う現実の差が浮かび上がる。
 そしていくつもの謎が観客に投げかけられる。
1.ふらふらと徘徊して街に出てしまった老父を追いかけた家政婦の身に何がおこったのか?
2.勝手に家から出て不在だった家政婦に怒って、銀行員夫が玄関の外へ突き飛ばしてしまい、彼女はお腹の子を流産するのだが、彼は彼女が妊娠していたことを知っていたのか?
3.家政婦はなぜ家を勝手に出ていたのか?

 物語は貧しい夫婦が銀行員夫を訴えることで進んでいくのだが、11歳の娘の演技が素晴らしい。すごく知性的でありながら、離婚に揺れる夫婦の間をさまよっている。
 物語の終盤でコーランを前にして真実に背く行為をできない貧しい夫婦の姿が涙をさそう。この「コーラン」を前にしたときの心情というのは日本人には理解しがたいものがあるけど、神の目を意識することで、真実を尊重し、正しくあるべきという倫理が生まれているのは間違いないだろう。
 追い詰められたとき、ぼくは守り通せる倫理を持っているだろうか?
面白くて考えさせられる名作でした。

 

別離 (字幕版)

別離 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video