石垣島から所想所説、徒然なるままに

沖縄・石垣島の話題を中心に、石垣島から見えること、思うことを徒然に。好きな映画のレビューや、自分が難儀しているアトピーの話題なんかも。

キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』 Kick-Ass 2 2013年アメリカ


続編だからたいして期待してなかったが、それにしてもね。
 クロエ・グレース・モレッツは生長してティーンエイジャーになっていたが、それでも魅力的だった。アクションシーンはしっかり頑張っていたし、普通の高校生活のシーンでもチャーミングではあった。
 だがしかし、脚本がひどい。特に周辺のキャラクターがあまりにひどい。デイヴが参加する「ジャスティス・フォーエバー」って自警団も、最近のアメコミヒーローのパロディとしてもひどいもんだし、なんといっても敵役がね、、、。マザー・ファッカーがあほすぎて、ぜんぜん笑えない。
 この続編をみてわかるのは、1作目はやはりビッグ・ダディことニコラス・ケイジの存在感の大きさだ。この父親のぶっ飛び具合が最高のユーモアだったし、彼からの教えを真面目に学び実践するヒットガールの、幼いながらの本格的なアクションが爽快だったのだ。
 1作目が名作だっただけに、もったいないことをしたなぁと思う。作らない方がマシだった駄作です。
 いや、それでもクロエ・グレース・モレッツは魅力的ですよ。

 

『蜘蛛の巣を払う女』 The Girl in the Spider's Web 2018年アメリカ・スウェーデン

 「ドラゴンタトゥーの女」の続編。スウェーデン、ミレニアムシリーズの一作。前作を見てから時間が経ちすぎていて、あまり覚えていないんだが、主人公・リスベット・サランデルを演じた女優さんが変更になっている。前作は
ルーニー・マーラというひとが演じていて、このひと、ピッツバーグ・スティーラーズ創設者のアート・ルーニー・シニアとニューヨーク・ジャイアンツ創設者のティム・マーラのひ孫、という超のつくお嬢様で、役とのギャップがすごい。ただ、個人的には前作のリスベットのほうが好きかな。どこか病的な雰囲気をうまく出していたと思う。基本的に作品自体がスウェーデンストックホルムの暗く寒いイメージと、ミソジニーという陰惨なテーマをもっているので、ルーニー・マーラ演じるどこか病的なリスベットがフィットしていたと思う。
 さて、本作のリスベットが魅力的じゃないわけじゃない。クレア・フォイの演技は表情だけで語るシーンなど、お手本のように上手だし、アクションシーンもがんばってこなしていると思う。だけど、彼女、健康的すぎるよなぁ。タバコはふだん吸わないんだろうな、ていうぐらいお肌はきれいだし、ヘルシーな食生活送ってそうな、ふくよかな顔、体型。闇の世界に生きるハッカー・リスベットはちょっと厳しいんじゃないか。
 またアクションシーンがかなり多くなっているんだけど、対人格闘シーンはともかく、リスベットがかない無双していて、女性版ジェイソン・ボーンみたいだ。強い女がガンガン活躍する映画は好物なので、ぼくは好きだが。
 いろいろ不満を書いてきたが、シリーズものの第二作としては及第点だと思う。単純にアクション映画として楽しめばいいんじゃないかな。

 

『プロミシング・ヤング・ウーマン』(Promising Young Woman)2020年 アメリカ

  主演のキャリー・マリガンが好きだ。たぶんライアン・ゴズリング主演の「ドライヴ」で初めて知ったと思うんだけど、Doctor Whoにも若いときに出ているのを見つけて「ほんとかわいいなぁ」と。この作品では、ストーリー的に必要なので様々なファッションを披露してくれるのだけど、そのどれもがチャーミングで、ぼくだったら一発で引っかかるなと。
 さて、そんな彼女の主演作としてはけっこう異色だと思う。彼女の一般的なイメージとはかなりギャップのある役どころ。大学時代に、親友をレイプ、自殺に追い込んだ男どもへの復讐劇、という重い内容だ。とはいえ、監督の演出が見事で、先述のようにキャリー・マリガンがシチュエーションに応じて様々なキュートなファッションを披露しつつ、男どもを潰していくさまはものすごく爽快だ。そして、再会した同級生ライアンとのみずみずしい恋。素敵なシーンがたくさんあって、観客もこのカップルを応援したくなってくるのだが、、、。
 ネタバレはしないけど、オチはつらく、悲しい。Promising Young Womanの意味だが、「(将来の約束されたような)有望な若い女性」だそうだ。真面目そうな両親のもと、医学部に入って優れた成績を収めていた主人公はまさにPromising Young Womanだった。そして自殺した親友・ニーナもそうだったろう。
 アメリカの大学における「フラタニティ」、そしてパーティ文化は、功罪ともにあるんだろうけど、日本の体育会系の部活と一緒でホモセクシュアルな一体感を生み出しつつ、そのサークルの外の人間を排除し、その「部外者」に対しては相手の気持ちを考えない、尊厳を認めないようなひどいふるまいを平気で行わせる装置になっているような気がする。
 集団レイプに参加したわけではなくても、そこにいて笑っていたライアンを主人公がけっして許せないのは当然だと思う。空気に流されずに、ひとりの一個人として正しいふるまいをそういうときにできるだろうか? ひとりの男性として考え込まざるをえない。本当に自信がないなぁ、、、。

 

Upload (TV series) 1st season2020 2nd season2022

  アマゾンオリジナル。ほんとに近い将来実現しそうな、死んだ後に意識をまるごとデジタルの世界にアップロードして、そのデジタル(バーチャル)な世界でほとんど不死のごとく暮らしていける世界を描いたコメディ。
 ユーモアのほとんどがかなりブラックなもので、あの世の沙汰も金次第を地でいく内容になっている(笑)。
 主人公・ネイサンの死にまつわる謎をはらんだミステリー仕立てと、カスタマーサービスの“エンジェル”ノラとのラブストーリーをうまく絡めた作りが、とてもうまくハマっていると思う。テンポも良く、ブラックなユーモアを笑えるし、役者たちの演技も素晴らしいと思う。
 ヒロイン・ノラを演じた アンディ・アローがとにかくキュートで素晴らしい。本来はミュージシャン、シンガーソングライターだそうで、本作までぼくは知らなかったんだけど、目ぢからがあって、笑顔がチャーミングで、知的で、と素晴らしい。
  本編からそれるけど、2点あげておきたい。
ひとつめは、特に現代の日本でこれから起こるであろう、身寄りのいないひとの孤独死の大量発生の問題。僕自身がこのままいくとそうなると思っているのだけど、従来の、残された子孫が墓を見る、という形は近い将来、というかすでに現在進行形で維持できなくなるだろう。江戸時代のなごりから多くの家庭が檀家として特定の寺に所属しているわけだが、そこから墓の管理料として、盆の読経の手間賃としてお寺さんに謝礼を払う。宗教法人として税制面で優遇されていたり、収支報告もいい加減であったりで多くの町の寺はやってきているのだろうけど、引き継ぐ長子がいない、という状況はこれから激増するだろう。このドラマのように死んだ後の仮想世界までお金を払える家庭はまだいいが、現実世界の墓も維持することは困難だ。少子化の社会はいままでの産めよ増やせよの時代から崖を飛び降りるような変化を迫られる。まぁ正直、自分自身は死んだあとのことなんかどうでもいいと思っているけど、社会的な大問題になるだろうなと。
 ふたつめは『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX  2nd GIG』だ。この作品の先見性は士郎正宗を天才たらしめていると思うが、それにしもてサイバー空間に300万人の難民のゴーストを連れて行こうとするクゼの「革命」は、鋭く現代的で、草薙素子がサイバー空間を漂うになるのも先進的だったが、クゼの革命は預言的ですらある。近年、急速に進みつつあるメタバースの構築は、ぼくは形を醜悪に変えたクゼの革命と変わらないと思う。特にアメリカのスーパーリッチに顕著な植民地時代の農園主のような思想は「金持ちとそれ以外=奴隷」ぐらいにしか世界を見ていないように感じる。メタバースが生み出すのは、現実世界で傍若無人に振る舞う富裕層と、仮想空間で調教された庶民という構図じゃないだろうか?
 本作品にブラックユーモアとしてたびたび提示される死後の世界の貧富の差は、生身の生きている世界でも進行中だということだ。
 これから先の20~30年というのは、人間社会にとって、本当に大変な時代になるのじゃないだろうか? 作品自体のユーモア、軽快なテンポ、と登場人物たちの爽やかさにも関わらず、なんだか暗澹たる気分になってしまった。面白いっす!

Amazon.co.jp: アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~ シーズン2を観る | Prime Video

Star Trek: Picard 1st season 2nd season 2020,2022

 スタートレックのファンとしては、アマゾンプライムでタダで観られるなら期待して観るのは当然だと思う。
 僕個人の結論としては、平凡な出来だと思う。スタートレックだからこそ、の期待感は裏切られたといってもいいかもしれない。

 1stシーズンはロミュラン主星の超新星爆発と、人工生命(シンス)の物語を軸に描かれている。人工生命の存在を認めるか、認めるとして、ヒトとしての人権を認めるかは今日的なテーマだし、スタートレックらしい哲学的な問題をはらんでいると思う。だけど、年老いたピカードとその仲間たちのキャラクター造形、、物語の展開、テンポ。そしてオチに至る流れがどうもしっくりこない。
 2ndシーズンは、舞台を現代にもってくることで、ある意味わかりやすい今どきのドラマに仕上がっていると思う。ただQがピカードに課す試練にしろ、未来をただすためにエウロパへの有人飛行計画を成功させるミッションにしろ、ボーグ・クィーンとのやりとりなど、SF的な、哲学的なイシューをうまく取り込めているか、鑑賞後に深く考えさせられるものかというと、ちょっと納得がいかない。

 かってのスタートレックとシリーズといえば、星新一ショートショートのようにアイデアに溢れ、一話一話が、そのネタだけで長編シリーズに展開できるんじゃないか、というぐらい内容の濃いものだったと思っている。一話完結ですすむシリーズなんかでは特にそうで、未知の惑星と生命体に出会い、人間とはまったく違う倫理や価値観、システムで生きる宇宙生命体と向き合うことで、様々な哲学的なテーマを突きつけてくるモノが多かった。もちろんシリーズの中ではユーモラスな人間ドラマだったり、純粋なアクション大作のような作りのものもあったわけだけど、シリーズ全体を通して思考実験としてのSFであったり、物語を通じて宇宙の多様さ、エンタープライズのクルーたちのダイバーシティとの向き合い方など、本当に深いテーマをはらんでいるものが多かった。そういう比較から言うと、このシリーズはスタートレックらしからぬ、ちょっとしたアイデアをテンポのいいストーリー展開で見せていく、ある意味とてもいまどきの作りのドラマに過ぎない、と思う。
 ファンとして、ぜんぜん面白くないわけじゃない。スタートレックの様々な小道具で出てきて、これまでの歴史をふまえたネタがちりばめられているのだから楽しいではある。だけど、期待値が高すぎたせいか、満足とはいえない。
 普通のドラマとしては星4つ。スタートレックとしては星3つかな、と。

 

 

「路 」吉田 修一 (著) 2012年

 吉田修一さんは好きな作家だ。特に初期の作品が好きだ。「最後の息子」「熱帯魚」「ランドマーク」「7月24日通り」「パーク・ライフ」「日曜日たち」「東京湾景」「女たちは二度遊ぶ」「初恋温泉」「キャンセルされた街の案内」などなど。中でも衝撃を受けたのはやはり「パレード」だった。
 ぼくは東京に住んだことはないのだけれど、著者が描く20代前後ぐらいの空気感、微妙な疎外感、ヒトとヒトとの近くもない遠くもない奇妙な距離感、、、。自分の20代後半とちょうど重なって読んできたので、読んでいてキツくなるぐらい心に刺さるモノがあった。「悪人」にいたっては、自分もいつ犯罪者になるかわからんなぁと思ったものだ。90年代後半から2000年代にかけての時代の空気をとてもしっかり捉えた作品群だと思う。また、ときどき著者の故郷である長崎が舞台になるのだけど、自分は長崎に親戚があるので、血縁と土地勘があるのでとても楽しめる。
 ただ、今作は台湾での高速鉄道の導入という歴史的事実を背景に描かれる「取材もの」とも呼べる内容で、2009年に連載が始まり、単行本の出版が2012年。台湾の「高鉄」開業は2007年。執筆当時はまだまだ「熱い」素材だったと思う。
 著者がやっぱり非凡だな、と思うのは戦前戦中に台湾で生まれた日本人いわゆる「湾生」を登場させたり、95年の「阪神淡路大震災」と99年の「921大地震」を物語に見事に溶け込ませるあたりだ。敗戦後の日本人引き上げや2つの地震については、あくまでも背景として描かれるだけだが、どちらも登場人物たちの心に鋭く刺さっている。大河ドラマのように多くの人物が登場するのだが、そのいずれもが陰影をもった人間として描かれているのがこの作家のすごいところ。
 ただ本作の凄みはやっぱりその構成力だろう。「高鉄」開業にむけて進む時間軸の中で、活き活きとした登場人物たちを見事に絡ませ、それぞれのゴールに向かっていく。
 ぼくは初期の作品から、この作家さんの感性の鋭さや表現力の見事さを特に感じていたので(特に短編集で)、本作のように緻密な構成力には驚かされた。とても計算された作品だと思う。
 あえて欠点をあげるとすれば、台湾人の登場人物たちがいささか理想化されている、というか単純に「いい人」すぎないかなと。安西の恋人になるユキには、特にそんな印象をもった。
 いずれにせよ、本作には「悪人」は登場しない。のちにNHKと台湾の公共放送PTSの合作でドラマが制作されている。まぁNHK向きの内容だとは思う。ちなみにドラマは未見。番宣とかをちらっと観たが、かなり改編されているようで、ちょっと違和感があった。

 それにしても毎年のように行っていた台湾にコロナのせいで行けていない。作中に美味しそうな台湾小吃がいっぱい出てくるので、切なくなる。早く台湾に行きたいなぁ(泣)

 

 

JUNK HEAD(字幕版)2021日本

 長編として発表されてたときに、(一部で)ものすごく話題になっていたので、監督インタビューとかも見ていて、気になっていた。クレイアニメーションストップモーション、それをほとんど一人でやってきたという狂気の作品。日本にもまだこんなとんでもない人がいるんだな、と驚いたのを覚えてる。考えてみれば新海誠監督だって、ほとんど一人で作っちゃったりしてるわけで、テクノロジーの進化が知られざるクリエイターたちに多くのチャンスを与えているんだなぁと。
 撮影に関する技術面については素人のぼくとしては、ほんとにすごい、としかいえない。監督の堀貴秀、原案、キャラクターデザイン、撮影、照明、音楽を兼任し、7年掛けて独学で制作。ほとんどの意味不明のセリフも監督自身が手がけている。
 舞台となる地下世界の20世紀的な廃墟感が好きだ。高度な遺伝子工学ののちに生まれたはずの世界だけど、この作品で描かれるテクノロジーは奇妙に20世紀以前のアナログで、大友克洋スチームボーイを思い起こさせるような質感を持っている。
 一方で人間が遺伝子工学で生みだしたとされる「マリガン」は遺伝子が不安定なために野生化したり、凶暴化したり、巨大化したりするという設定。
 ぼくは、このマリガンが主人公パートン以上に人間的、生物的である、というところがちょっと怖かった。パートンは長寿のかわりに生殖能力を失った人間なわけだが、地下世界のマリガンたちの多様性はなんだろう? 巨大化し、小さなマリガンを取って食うものたち。暗がりに潜み、触手を伸ばしてかかったものを飲みこむものもいる。いっぽうでおとなしい犬か馬のように描かれる、人間が生殖遺伝子の持ち主として探そうとしていたマリガン(トロちゃん)もいる。あまりに多種多様に分化、進化したマリガンたちは、弱肉強食の生物界そのままに獲物を襲う野生のものもいれば、人間のように奇妙な社会を構成しているムラも存在している。
 これって地球上の生物の進化そのものじゃないか? マリガンの分化過程の中で残酷でグロテスクに見える食物連鎖が成立しているわけだ。
 マリガンたちは人間からみれば「共食い」しているようにも見えて、その捕食シーンはなかなか残酷に描かれている。一方で奇妙な無機物の身体になって自我(攻殻機動隊でいえばゴースト)だけになったジャンクヘッド=主人公は、地下世界に降りてきてはじめて「生きていると実感している」と語る。
 グロテスクなのにかわいかったり、無機質なのに表情豊かなロボットだったり、キャラクター造形がすごい。もちろん、随所に見られる過去のSFや日本のアニメへのオマージュかなという部分は、ほんとに楽しくて、監督の好きなモノが渾然一体となったのがこの作品なのかなと思う。
 噂に違わぬ強烈な作品。ラストに早回しで流されるメイキング映像がすごい。とにかく一度は観てみるべき作品だと思います。